こんなに土下座の似合うトップ様いる?雪組壬生義士伝が楽しい

だいもんこと望海風斗は正統派トップではない。圧倒的な実力は誰もが認めるところだが、ブラックな芸風のせいかちょっとだけ小さい身長のせいか、路線としての歩みは平坦ではなく、だいもんはちゃんと路線なの?とファンとして不安になる時期もあった。しかしめでたく雪で就任、超歌うまで美声で可愛くてちょっぴり生意気、そんな相性抜群な嫁ももらった。ベネディクトとかドン・ジュアンとかの黒い役が似合う反面、白い役がべらぼうに似合わないだいもんがトップになってどんな演目をするのか不安はあったけど、ひかりふる・ファントムで姫属性を活かした堂々たる主役ぶりを見せてくれ、今や劇団随一の実力派として押しも押されぬトップ様である。さすがだいもん。

そんなだいもんのトップ4作目となる壬生義士伝は、原作・浅田次郎、脚本演出は石田昌也ことダーイシ。そう、名作モンテ・クリスト伯をみじん切りにして味噌で炒めてドブ水を振りかけたみたいな駄作・宙2013モンテ・クリスト伯や、オジサンが君たち世間知らずに世の中の厳しさを教えてあげるよ的な勘違いウエメセ説教が不愉快な月2018カンパニーなどを作り出したあの悪魔、ダーイシである!特にカンパニーは演者と観客をバカにしくさった内容で、ショーが天才上田久美子の衝撃作・BADDYじゃなければ観に行ったことを生涯後悔しただろう。それほど酷い作品だった。演出家としての知性、文化的教養、リテラシー、ヅカへのリスペクトと進取の精神、美意識、あてがきの上手さ、すべてにおいてダーイシとウエクミの格差が大きすぎてめまいのした公演だったぜ。

ダーイシへの呪詛は無限に湧いてくるが、ダーイシの一番困ったところは隙あらばヅカの夢夢しさを否定にかかるところだ。演出脚本音楽演者の力量、すべてにおいてヅカより優れた演劇作品はこの世にわんさかあるのに、客がどうしてわざわざヅカを観るのか、ダーイシは一度とっくり考えて欲しい。客はチケ代払って夢を見に来てるのに、その夢を壊してどうするダーイシ。


今回原作となった壬生義士伝もいわゆるヅカっぽいお話しではない。貧困が大きなテーマで主人公は守銭奴。ダーイシへの憎しみが私の認知をゆがませている可能性は大いにあるが、ヅカっぽくない話をやったるぜ~、みたいないやらしさを感じるチョイスだ。だが!だいもんはこれをヅカのままやってみせた!

今作の吉村貫一郎役で、だいもんは高潔さとみじめさを両立させる演技力を見せてくれた。吉村はずっと土下座してる。いや、ずっと土下座してるわけはないんだけどそんな印象なの。宴会でとっくり持って太鼓持ちをつとめるトップ様、へらへらといやらしく金を無心するトップ様、軽~く扱われるトップ様、這いつくばって金を数えるトップ様…。夢見がちなヅカオタの地雷になりそうシチュが山盛りだが、ぜんぜん違和感を感じない。ひとえに、だいもんの演技の滑稽さ、狸ぶり、悲壮感、高潔さの表現のバランスが巧みなためだ。同時に、武士の折り目正しさをいかにもヅカらしい所作の美しさにうまく落とし込んで、トップとしての端正さを損なっていない。笑いの中にも、家族のためには体面をかなぐり捨てるという吉村の覚悟のほどが伝わってきて、吉村のような義の人がそうせざるを得ない時代の残酷さを感じさせる。ラストの破局へと不可避的に進んでいく吉村の運命に涙し、そしてみじめさに萌える。こんなに土下座の似合うトップ様いる?

他の演出家だったら演出を激賞するところだが、いかんせんダーイシなので、この役作りはだいもんの手柄だと私は思っている。ダーイシここまで繊細な仕事できない。ダーイシへの憎しみが私の判断に影響していると思ったら指摘して。ダーイシが憎すぎて、正常な判断ができてる自信がない。

ただ、ダーイシの手柄と認めざるをえない点もある。今回は組子への役のあて方がいい。出色だったのはあーさの齋藤一だ。精神の荒廃したど-しょーもないチンピラ野郎だが、あーさが持ち前の陰の気を生かしつつ、崩しすぎずに上手く演じている。そんな齋藤といつも行動を共にする沖田もいい。ひとこは笑うと口角がぐぅっと上がるのに目は細くならず、キラキラオーラとその笑顔があわさって快楽殺人鬼みたいで素敵だな~とかねてより思っていたが、無邪気に物騒な沖田はそんなひとこにぴったりだった。吉村を心から思いやりつつも立場の違いから死を命じる幼馴染は、ともすればそらぞらしい役どころになりそうだが、さきなの温かい善性によって血の通った人間になっていた。武芸は不得手だが優しく、維新後は医師となるさきなの息子にあやなの穏やかで繊細なたたずまいがよく合っていた。

ただ、カチャの役、いらなくない?
ダーイシお得意の、話をぶちぶち切って出現する別時代の解説組のリーダーがカチャです。いちおうカチャが鹿鳴館で語る昔語りが物語の枠組みになっているが、カチャで尺とってる分、本編の要約が乱暴。導入で引き込んで締めで平和な時代との対比を見せたいのはわかるが、そんなら冒頭は時代の生き残りであるあーさ齋藤に「語っておくれあの人のことを、そう、吉村貫一郎~!」って感じにルキーニやらせればいいんだし、締めは子供世代のひらめあやな夫妻に盛岡ソングを歌わせたらいいのに。しかも話がいいところに差し掛かると幕が下りてカチャご一行がぞろぞろ出てきて内容のない解説をするから物語に没入できない。ダーイシのこの解説病どうにかならないのか。ロクモでは絶対にやめてほしい。

あとこれもどーーーーしても言っておきたいんだけど、常に行動をともにしてさんざん物騒仲良しぶりで萌えさせてくれる齋藤と沖田の!今生の!別れの場面!二人の青春の!終焉の場面で!会話も絡みも!無い!!ダーイシそういうところだぞダーイシ。気が利かない男、ダーイシ。

そんなこんなでダーイシへの不満はあれど、雪組壬生義士伝、(おもに原作と組子の力により)すごく楽しいです!特に名探偵だいもんの場面!


ちなみにショーの演出はファントムでだいもんと組んだばかりの中村一徳ことナカムラB。ファントムでナカムラBやるじゃん!と思ったけどオリジナルショーはいたって普通。人海戦術で組子を大勢出してくれて、いろんな組子に場面を設けてくれ、銀橋も渡らせてくれるので見ている間はテンション上がって楽しい。だが1年後にはたぶんこのショーのことはすっかり忘れているだろうな、と思わせる、目新しいものの何もない凡庸なショー。というか観てから1週間もたってないのに既にもうよく思い出せない。当代随一の歌うま・だいきほを使ってこれかぁ、と言わざるを得ない。
(組子評:あやなが場面をもらってて嬉しく、縣千がいよいよ上がってきてわくわくした。ひとこがキラキラしてた。立派になって…花での活躍が楽しみです!)

追記・SS席で二回目を観てきたんだけど、なんかショーが良かった…組子をしっかり見せてくれて…ナカムラBけなしてゴメン、意外と楽しいよ…まぁSSだからかもしんないけど…