本物の歌仙兼定が明治座にいた。舞台『刀剣乱舞』綺伝いくさ世の徒花。

はぁ~よかった。
よかったです刀ステ綺伝。
推しの歌仙兼定がよかった!

演じている和田琢磨さんが、よく研究して台詞や所作をひじょ~~に歌仙に寄せている。7年にわたって数枚の立ち絵と極少量のボイスだけで自分なりの歌仙像をこねくり回してきた私のような面倒オタクにすら、和田歌仙は本物の歌仙に見えた。
成人男性にあの紫髪…?という最初に感じた違和感も、和田さんの演技を見ているうちに雲散霧消。
「本物の歌仙がそこに立ってる!」としか感じられなくなる。
2.5次元すごいな。

そしてこれまで数多のメディアミックス作品が出る中で、初期刀の一振りなのにも関わらずとんと主役に縁のなかった歌仙の、はじめての主人公作品!
歌仙兼定って主人公属性がほんとに無くて…歌仙担が言うのもなんだけど、君はなんで初期刀にいるの?ってほど主人公属性が無くて…。
歌仙を主役にしてドラマを作るのって、さぞやりにくいだろうな~って思うんだけど、脚本演出の末満さんが、そんな歌仙の主人公ぽくないキャラを崩さず、しかもさらに深堀りして、でもちゃんとドラマにしてくれた。


以下、キモオタの歌仙兼定語りなんですけど…

他の初期刀たちがそれぞれの理由から、時に刀としての自分の在り方に迷いが生じるのに対して、歌仙はそれが無い。
自分は優れた主人に愛され、主人の美学を体現した名刀であるという認識と、そこからくる自信は揺らがない。
ただ、歌仙に他の初期刀たちのような葛藤が無いというわけではなくて、それは複雑な形で性格の奥に潜んでいる。

歌仙の元主の細川忠興というのは面白い人で、名家細川家を率いて織田・豊臣・徳川政権の激動の政治情勢を乗り切った優れた政治家であり、同時に秀でた文化人でもありながら、プライベートではめちゃくちゃに短気で、関係ないお茶の本にまで天下一短気な男と書かれるレベルに短気な人だったらしい。

歌仙はそんな元主の文化的な才能をひじょうに愛し、誇りながらも、短気な気質には眉をひそめているのだが、歌仙自身にも、忠興の性質を写し取ったような短気さがある。
そしてリリースからかなり遅れて実装された回想で、歌仙は内弁慶の人見知りという爆弾が投下された。
歌仙の子どものような情の豊かさを描いたこの回想、本当に天才だと覆う。
情が濃いから心を許した相手には短所をさらけ出して甘えるし、いっぽうで対人関係を失敗するのを恐れて人見知りする。
一見穏やかな態度の後ろに隠されたこだわりの強さと情の深さ、そこからくる短気や人見知りや甘えといった子供っぽさ。
歌仙の人物像が補完された歴史的回想である!

う~~ん、主人公にしづらい性格!

 

じゃあ綺伝の歌仙はどうやって主人公をやっているのか?というと、ステ歌仙は別に短気じゃないです!
じゃあ原作と性格違うじゃん!てなりそうなものだけど、短気さを情の濃さと戦闘における勇猛果敢さにうま~~く変換して描写している印象。
それは刀ステの忠興の、愛が重いあまりに何かとキレがち、という人物像と対応している(実際は忠興公って頭良かったはずでは?とは思うけど、脇役にするには多面的すぎる人物なのでバカっp…性格描写が単純化されてるのかな)。

なのでステ歌仙は原作歌仙よりも短所が少なく、大人っぽい印象ではあるんだけど、青江などの気ごころ知れた相手と接するときの内弁慶っぽさや、逆にあまり親しくない相手と話すときのちょっと取り繕った、心の中では人見知りしているんだろうな~と感じさせる和田さんの芝居が絶妙で、そして殺陣では一転して刀ステ随一のパワー系殺陣で苛烈に暴れまくるので、「あ~~これは本物の歌仙!」とオタクも大納得。


そして綺伝の歌仙が魅力的だったのは、なによりも心に溢れる愛情と優しさ。
苦悩しながらも、歴史を守る使命感が揺るがないのは、正史の忠興への愛情から。
その一方で、忠興とガラシャの幸せが続いて欲しかったと願う優しさを持っている。
原作ゲームの特命調査では描ききれなかった、この2つの相反する感情に苦悩し、悲しみを歌へ昇華する歌仙が綺伝では存分に描かれていて、歌仙兼定担として大満足の舞台でした。末満さんありがとう…ありがとう…。


その他よかったとこ
・OPで扇を持って刀たちが舞うとこ、雅~~!「綺」なる世界へと導かれる!
・今回の部隊編成、全員の偏差値が高くて、仲たがいとかほぼ無いので、歌仙とガラシャの物語に集中できる
・原作でも史実でも接点は無いのに仲良し認定されがちなにっかりと歌仙を公式メディアミックスで仲良しにしてくれてありがたい。寿命が伸びた。
・脚本はいつもながら長い。キリシタン大名と少年使節団とか、あんなに書く必要ある…?他の刀の見せ場を作るためなのは分かりますが…
・かいちゃんこと七海ひろきさん演じるガラシャ、つよつよで美~~~~!ここぞとばかりに舞台上に花畑が出現するし花が散るし照明も当たるw
ガラシャ様、自分自身の本当の願いを悟れないばかりに周りを巻き込む迷惑この上ない存在なのに、かいちゃんが強さと美と純粋さで押し切ってくるので説得されるより無い
・忠興とガラシャの幸福な時代を見守る歌仙の優しい声と表情…。和田琢磨さん本当に芝居が上手い。
・歌仙はああやっていつも忠興の言葉を聞いて、語り掛けていたんだろうなあ(そして性格が似たんだろうなあ)
・歌仙の真剣必殺の場面、テノールが朗々と鳴り響くなか、威風堂々と見栄を切りながらすっぽんから競りあがってきてパワー系殺陣で大暴れするのが面白すぎて笑いをこらえた。最高。
ガラシャを斬ったあと、泣き崩れる(見切れ席なので上手が見えてないけどたぶんそう)地蔵くんを叱咤する歌仙の厳しさと優しさ。もはや父性。
・古今伝授に対して歌仙がけっこうハッキリものを言うのがいいよね。
・爆速で修行から戻ってきて極める歌仙。極衣装よりは特衣装のほうが好き派なんだけど、和田さんが着ると極衣装も不思議と自然に見える
・エンディングの傘、いいよね~。歴史上人物の男性たちを周りに置いて見栄を切るガラシャ様、美しいです
・自分の傘をたたみ雨に打たれるガラシャ様に傘をさしかける歌仙のやさしさ…
和田琢磨様、すばらしい歌仙を演じてくださってありがとうございます。

 

追記:すごいタイミングだけど、2022年4月3日、明治座大千秋楽の当日に原作ゲームの大侵寇の最後のレイド戦が突破されて「朔」のストーリーが公開され、初期刀贔屓の審神者は残らず死んだ。歌仙が7年間のゲーム・メディアミックス全部ひっくるめて(多分)はじめて自作の歌を披露して、歌仙贔屓の審神者は綺伝から続く雅の過剰摂取で死んだ。