うえくみ~~!オレだ!しっかりしてくれ~~~~!

 『f f f -フォルティッシッシモ-』

 

だいもん退団公演である!!!!!!!!!!!!

コロナで延び延びになっていたがついに幕が開いた。

最高峰の歌うまコンビ、だいきほの最後の公演。

演出は劇団気鋭の演出家、上田久美子と生田大和がそれぞれ芝居とショーを担当。

いやがおうにも期待が高まるってもんですよ!!!!!!!!!!

 

………

 

 

なのに芝居が爆死してる~~~~~~~!!!!!!!!!???

なんで!!?うえくみ、しっかりしてよ!!!!!!!!!!!!

 

 

上田久美子先生(以下、うえくみ。宝塚にはウエダという名の演出家が3人もいてややこしい)は、劇団屈指の優秀な演出家である。

オリジナル脚本が書ける。題材探しが上手い。あてがきも上手い。

(宝塚はスターシステムだから、スターにはまり役を用意できる能力が演出家には重要なのだ。)

舞台演出ができて、衣装や美術のセンスが良い。

知性が高く、野心的で、新作のたびに新しい挑戦を見せてくれる。

デビュー作から一貫して幼馴染人妻三角関係悲恋ものしかやらないという謎の信仰の持ち主だが、個人的にはそこも好きだ。

同世代の生田大和先生と並び、間違いなく今後の宝塚を担っていく演出家である!

 

でも今回は失敗――――!!!!!!!!!!!!

うえくみは知性派なので、脚本で致命的にドジることはこれまでなかったのだが、今回は脚本がいかん。

尺が足らなくて、後半ほぼベートヴェンの心象風景になっちゃって観客置いてけぼりの独りよがり。TVシリーズエヴァかよ。どうしてこうなった。

脚本がダメだと、他がどんなに良くてもその芝居はダメなのだ。

 

順を追って説明する。

まず今回の芝居、題材はベートヴェンの生涯と苦悩。

そこは良い。だいもんに似合うし。楽曲使えば盛り上がるし。

そしてナポレオンとゲーテが出る。

ここですよ!!!ナポレオンで失敗した!!!

 

同時代の3つの巨星、ベートヴェンとナポレオンとゲーテを扱ったミュージカル、すっげー面白そうじゃん?

序盤で、「19世紀、フランス革命という炎で熱せられた溶鉱炉のようなヨーロッパ!

その熱に鍛えられた鋼のような3人の男たちがいた!(うろ覚え)」

って台詞とともにドラマティックな演出で3人が舞台に並び立ったときは観ているこちらもボルテージが最高に上がりました。

これからどんな傑作を見せてもらえんのかなって。

 

でもこの3人の話を一幕に収めんのは無理。

登場人物相関図が出たときから、「これは一幕でやれるのか?」と思ってたけど、やっぱり無理。どう考えても無理ですよ。一幕ではやれません。

ゲーテは忠告者みたいな役回りで、そこは良かったんだけど、ナポレオン。

ナポレオンをなんでそんなに大きな役にした。

100周年でイケコが二幕たっぷり使ったナポ礼音ですら尺が足りてなかったんだよ?

ベートヴェンの片手間にナポレオンをやるのは無理って、お母さんあんなに言ったでしょ!!!

(※言ってないしうえくみの母でもないです)

 

 

いや、あのね、個人的にうえくみの作品がすごく好きなので以下擁護になっちゃうんですけど、大きな挑戦したのはわかるし、挑戦の方向性も正しいと思うの。爆死作品には違いないけど、前のめりな爆死。

 

まず作劇法をこれまでとガラっと変えてきた。これには驚いた。

うえくみはこれまでは、芝居と歌のパートがきっかり分かれた、歌劇風っていうのかな?台詞でストーリーを進めていって、合間に歌で心情を盛り上げるという作劇だった。

でも今回はストーリーも歌と踊りで回すミュージカル調になってる。

こういう演出をするのが初めてとは思えないほど、これが上手い。感心した。

 

そして、テーマをスケールアップしている。

これまで頑として幼馴染人妻三角関係悲恋ものしかやらなかったのが、今回は時代のうねりと、そこに生きる人間の苦悩と歓喜を正面から描いている。

まあ、幼馴染人妻三角関係悲恋要素もしっかりとあるんですけども。

でもあくまでもベートヴェンという人物の背景として描かれている。

 

うえくみの芝居って、超・超乱暴にまとめると幼馴染人妻三角関係悲恋ものを台詞のやりとりと静的な演技で見せる芝居なんだけど、この作風だと大劇場の空間は埋められない、とうえくみの大劇デビュー作の星逢一夜を見たときに思った。

でもその後、大劇場で新作を出すたびに、うえくみは新しい演出を取り入れて大劇に自分を適応させてきた。

そして今回はこれまでになく思い切った挑戦を二つもやった。現状、ファンにわりと人気がある演出家だと思うが(好き嫌いは分かれるみたいだけど)、地位に安住しないうえくみのの気概、知性、野心、心から評価したい。 

 

でも、大事な大事なだいもん退団公演だよ!!!!!しっかりしてくれ、うえくみーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!

 

うえくみ、好きです。

 

 

 

 

良かったポイントも書いときますね。

まずあてがきがぴったりで、各人の人物描写が良い。

だいもんベートヴェンの童貞コミュ障ぶりが笑いを誘いつつも痛々しくて、その塩梅が見事。憧れのゲーテ先生に会ってはしゃいじゃった陰キャオタクのベートヴェンが一方的にしゃべるシーンはリアリティがありすぎて、同類として胸が痛いほどでした。ゲーテ先生のお話ちゃんと聞こ?

性格キッツそうな謎の女きいちゃん、苦悩するナポレオンさきな、大きな知性を感じさせるなぎしょゲーテ、故郷ボンの暖かい空気をまとうあーさ&ひらめ夫妻ら番手スターたちもだし、美しいが意志の弱そうな恋人ジュリエッタ夢白、やんちゃで奔放なモーツァルトみちる、宮廷での道化的立ち回りの上手いサリエリあす、気高いアントワネットゆきの等等、脇までしっかりとはまり役で、世界観に説得力をもたせつつ、みんな魅力的だった。

劇中劇の若きウェルテルの悩みの登場人物をダンサーとして象徴的に出したり、天界組のコミカルな場面をさしはさんだりと、いちいち演出が心憎い。

コロナ対策で今はオケがいないんだけど、からっぽのオケボを、まさにベートヴェンが指揮をする場面の舞台装置として活用する演出にも脱帽。か、賢い…!

特に冒頭の沸き立つようなエネルギーを感じる一連の演出は心が躍りました。

脚本はもうほんとダメなんだけど、パフォーマンスのレベルは高いし、演出は良いので、見ていてしんどいとかではない。

 

 

生田大和先生の記念すべきショー初挑戦作品『シルクロード~盗賊と宝石~』は良かった!

衣装の趣味が良いし、どの場面も華やか。菅野よう子の楽曲もヅカの舞台にぴったりと合っていた。

しょっぱなきぃちゃんが「愚かなる結末~♪」とのたまいながら冷たい笑みを浮かべてゴンドラで降りてきたときは興奮のあまり笑いが出てきたし、サイケなインドのシーンは「インドの神様ってこんな感じだよね」という謎の説得力に満ちていたし、「僕とだいもんのメモリー」と言わんばかりのバンドネオン上海のシーンがクッソかっこよかった!きぃちゃんの歌が超クールで、雪組の誇るモデル系美女軍団がチャイナドレスで踊ってるし男役もチャイナでガンガン踊ってるし彩彩だしな。あやなと縣をシンメで踊らせまくってくれて感謝しかない。

生命の樹?のシーンはちょっとわかりませんでしたが…あと退団ぽさは燕尾とデュエダン以外ゼロのショーでしたが…そして恐らく生田先生のやりたいことをすべて盛り込んだ結果、構成に緩急の急しかなくて、1時間ひたすらにウニとステーキとケーキと唐揚げを口の中に交互に押し込まれ続けるような、息継ぎもできないショーでしたが…。でも最高でした。ありがとう生田先生。またショーやってください。あと、バッディが好きなので、うえくみもまたショーやってください。