信仰をこじらせた茶の間、イベントで死す

贔屓は生きている人間ではあっても、自分とは存在する次元の違う尊い存在であって、贔屓が自分と同じ世界線に存在するのは解釈違い地雷。そんな信仰上の理由から、接触のあるイベントにとんと参加してこなかった。


だがヅカでとりわけ贔屓にしていた娘役が退団して1年半、SNSで動向を負うだけで、芸能活動をする彼女を一度も見に行けていないことに焦りだした。贔屓は小規模のトークイベントなどを中心にしたたいへんのんびりした芸能活動をしているので、上の理由により足を運んでいなかったのだ。そんなときに、贔屓が50人くらいのハコではじめての単独イベントをするという。演目は朗読とお歌。見たい、と思った。

 

だが問題がある。ハコが50ってことは、まず間違いなく贔屓の網膜に私が映ることになる。それも、けっこう顔とか服装とかが判別できる距離で。あの世界一美しい女神の網膜に私ごときミジンコが…?そんなこと許される…?無理でしょ…?

 

アイドルの握手会で認知もらった、みたいなドルオタの方のレポートを見ると部屋の隅でガクガク震えて命乞いしだすようなオタクである。信仰がこじれすぎて、認知どころか贔屓の視界に自分がよぎる可能性を考えただけで無理すぎて床を転がり回りそうになる。

 

だが、いつまでもあると思うな推しと金という格言もある。贔屓の芸能活動は、正直なとこ活発ではない。事務所すぐ辞めたし。加齢により魅力が衰えるタイプの容貌ではないが、宇宙一の美貌の彼女もぼちぼち●歳、本人ののんびりした性格的にも、これから猛烈な芸能活動を、という感じではないのだろう、たぶん。だからこそ今、初めての単独イベントにがんばる彼女を1ファンとして心から応援したい。なにより見たい。でも…いや…しかし…。そんな感じでイベント告知から数日悩んだ末、思い切ってチケットを取った。

 

精神的なストレスから逃避するため、当日までできるだけイベントのことを考えないようにして生活。こういうイベントに着ていく服がわからなすぎたが、無難さを最優先して綺麗めの形に地味なカラーリングの服で会場へ。シャンソン中心の上品なライブハウス兼バーみたいなハコは、めでたいことに満席。椅子がぎゅうぎゅうに入っている。50定員だが増やしたのかも。お席は後ろのほうの見やすい席。近すぎなくてよかった、命拾いをした。

 

開始時刻になって照明が落ち、カーテンの向こうからいよいよ贔屓(1年半ぶり)が登場。意外なことにお着物姿。似合う。美しい。演目に対する感想はほどほどにするが、1部の朗読には引き込まれた。贔屓の芝居がとても好きだ。声もいい。2部のお歌とダンスとMCの美しさ可愛さ。歌唱そのものは、現役時代から相変わらずだけど、まぁ、あの、アレだ、独特。だが贔屓の光輝く美しさと、おっとりとした、しかし頑張り屋さんな性格の品のある可愛らしさに脳を焼かれて終了。途中で贔屓が席に回って全員にチョコを配ってくれたが、歌のパフォーマンスをしながらだったから、こちらもノリのよいモブとして振舞えたと思う。上出来上出来。最高に楽しかった~来てよかった~!さ~て物販して帰るか…と思ったらお見送りがあるという。

 

…はい?

 

いや、はい???

 

もうすっかりその可能性が頭からスコーーーーーーンと抜けていた。
いちおう弁解すると、ヅカでも男役はお茶会でお見送り&握手などがあるが、娘役は男性ファンとの近距離での接触がNGなのでお見送りは無いらしい、というのを前に聞いたことがあったので(本当かは知らない)、OGもそうなんだろうとなんとなく思い込んでいたのだ。んなわけあるか。

 

いやいやいやいや…え…いや…無理でしょ…

 

いっそ逃げたいくらいだが、唯一の出口には贔屓が立ちふさがっている。近いわ。他のお客様は慣れているのか(そもそも彼女のFCに前から入っている方も多いだろうし)楽しそうに贔屓と会話している。こちとら何を話せばいいのか検討もつかない。贔屓と会話するどころか、贔屓が自分と同じ高さの床に立っているという状況だけでもう死亡しそうなレベルにてんぱっている。なにこれ拷問?

 

結果として、贔屓に精いっぱい、今日とても楽しかったこと、またイベントがあれば必ず来たいということ、素晴らしい時間を送らせてくれたことの感謝を伝えた。でも気持ちを伝えるのでいっぱいいっぱいで会話になんなかった。ごめん。ほんとごめん。答えやすい話題とかを振れればよかったんだよね…ごめ…ごめ……

 

 

天に上りそうな興奮と幸せと、地核に永遠に埋まりたいほどの反省と自己嫌悪を同時に抱きながら帰宅。翌日、激しい頭痛とともに目覚めたら知恵熱みたいなものが出ていた。贔屓は健康に良いというのは世界の常識だが、過剰摂取をすると毒にもなる、そんなことを学んだイベントだった。